緑の悪霊 第7話


完璧な清掃をした咲世子ではあったが、犬・・・いや、羊を狙う狼の嗅覚を持つスザクには残念ながら勝てなかった。
絶対に何処かにエロ本を隠しているはずだ。パソコンの中にデータで保管している可能性は欠片も考えていないスザクは執拗に部屋の中を探しいた。
ちなみに、シスコンをこじらせ過ぎたルルーシュは、ナナリーがいれば愛情面では全て満たされている為、もしかしたらそっちに意識が向いていないというか興味が薄い可能性は会ったのだが、あえて気付かないふりをしている。
悔しいから。
そして、執拗な探索の末、それをみつけた。

「・・・僕たちの年齢だし、そう言う事もあるとは思うけど」

知らず、声が震えた。
そして、それに震える手を伸ばす。

「・・・どうしたんだスザク?」

今まで聞いた事が無いぐらい低い声のスザクに、若干尻込みしながらルルーシュは尋ねた。そんなスザクは今、ベッドマッドを片手で抱え上げその下を確認してる。
俺が両手で引きずり下ろすのが精いっぱいの、あのマットを、片手で軽々とだと!?と困惑していた時に声を掛けられたため、若干声が裏返ってしまった。
まさかそんな場所まで見られるとは思っていなかったが、そこから何かを見つけ出すとは更に予想外で、ルルーシュはそこで見つかる可能性のある物をひたすら頭に思い描いていた。・・・が、1つも思い当たらなかった。
強いて言うならC.C.が何か隠した可能性ぐらいしか思いつかない。が、隠すような物の見当がつかなかった。

「ほら、髪の毛」

詰問口調で言いながら上げた顔は、鬼のように恐ろしいものだった。
思わずそちらに視線が固まっていると、「ほら」と、スザクは手を振った。確かに長い髪の毛らしきものをその指でつまんでいるのが見えた。

「髪の・・・毛?」

これほどの怒りをあらわにして、見つかったのは、髪の毛一本?思わずルルーシュがポカンとした顔で首を傾げたのは仕方のない事だろう。
そんなルルーシュにスザクはますます苛立ったように口元をへの字に歪め、マットを支えていた手を手を離した。ベッドマットはどさりと大きな音を立ててベッドの上に落ちた。折角ベッドメイキングされていたというのに、ベッドの上はぐちゃぐちゃだ。

「緑色の長い髪の毛だね。・・・誰の?」

底冷えするような重苦しい声と、冷たいまなざし、いつもの笑顔とは180度違うきつい表情に、本当にスザクなのかとルルーシュは眉を寄せたが、スザクの言葉の意味をようやく理解し、しまったと思った。
緑の長い髪、それはC.C.の髪だ。
それは本当にわずかな反応なのだが、今のスザクは恋人の浮気を詰問する彼氏状態のため、そのほんのわずかな変化も見落とさなかった。

「・・・綺麗な髪だよね。ちゃんと手入れされてる・・・女性の、かな」

先ほどよりも低い声に、ルルーシュは背筋が震えた。
・・・くっ、C.C.の髪がそんな場所まで入り込んでいたとは!だが、所詮髪の毛1本、どうにでもごまかせる!

「緑か・・・さあな。少なくても俺のでも、ナナリーのでもないな。咲世子さんも黒髪だし・・・服か何かについてた髪が入り込んだんじゃないか?」

ルルーシュが、苦笑しながら言ったので、スザクは眉を寄せた。
緑の髪の毛と言う言葉に反応を示した。
だから心当たりはあるはずだ。
緑・・・緑・・・。
そこまで考えてスザクはハッとなった。
あの、奇跡的な再会の日。
緑色の髪の女性を二人で助け出したのだ。
そして二人で彼女の拘束衣を解いた。
その時に彼女の髪がルルーシュの服にでもつき、何らかの理由でここに入り込んだのか・・・?
可能性はゼロでは無い。
長さも一致する。
ルルーシュの先ほどの反応も、あの日の事を思い出したからに違いない。
僕が撃たれた現場も見たのだから、それらの記憶を呼び起こしてしまったのだろう。
何だ、そう言う事かと、スザクは内心ほくそ笑んだ。
・・・これは、使える。
出来るだけ声を押さえてスザクは言った。
先ほどより幾分か柔らかくなっているのは、殺気が消えたからだろう。

「ルルーシュ、解ってないみたいだけど、これは悪霊の残した髪の毛だよ」
「はあ!?」

肉体を持たないゴーストが残した物だと!?
スザクの言葉に、ルルーシュは驚きの声を上げた。

「ブリタニアではどうかは知らないけど、日本の悪霊は・・・特に生前髪の長かった女性は、悪霊となった後、その長い髪を至る所に残すんだよ」

言われてみれば、戦争前にスザクが夜中に日本の夏の風物詩だと言ってこっそり部屋で見せてくれた和製ホラーの映画では、やけに髪の長い女性が、髪を振り乱しながら襲って来たり、水場のいたるところから長い髪の毛が出てきたりしていたな・・・。
それらを思い出し、思わず納得しかけたが、違うだろうとルルーシュは顔を上げた。

「いや待てスザク。悪霊云々の前に、何かの拍子にその髪が衣服なりについてきて、それがそこに落ちたと考えるべきじゃないか?あるいはその髪の持ち主が、以前この部屋を訪れた事があるとか・・・」
「服にたまたまついた程度で、こんな場所に潜り込むのかなぁ・・・もしかして、君、この髪の持ち主を部屋に招き入れた事、あるの?」

再び冷たい声音と、顔は笑顔なのだが目が笑っていない状態で、スザクはルルーシュに詰め寄った。ルルーシュからすれば、今のスザクの方がよっぽどホラーだった。
怖い。
夢に出てきそうなぐらい怖い。

「い、いや、覚えはないが・・・」

スザクに気押されながらも、ルルーシュは首を振った。
その言葉に、スザクは今までの底冷えする空気を霧散させ、にっこりといい笑顔で頷いた。まるで今のスザクの反応は夢だったかのような変わり身の早さだった。

「うん。君が女の子を部屋に連れ込んでないことは解ってるよ?ましてやベッドになんて。だって君は童」
「スザアァァァク!!!」

男としては口に出されたくない単語をさらりと言おうとした親友に向かって、ルルーシュは力の限り吠えた。

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